Hazuki Natuno

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星月夜

星月夜

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灯りの消えた本屋の前に止めた自転車の鍵を開放して僕は走り出す。
人は稀に通り過ぎる。
自動車の見えない交差点を過ぎて、右へ。
人の気配は消えたように、人家は静かだ。
世界の終わりのように。

車輪が回るほど、世界は消えていく。
人が消え、自動車が消え、人家が消え、気配が消える。
僕は漕ぐことに集中する。
コートの裾が跳ね返り、寒風が脚を突き刺す。
走ることだけをしていたい。
他の何かはどうでもいい。
道程は長い。ペダルは重い。

街から町へ。駅から道へ。
道の終わる頃、畑が見えてくる。
今日も月は眩い。
自転車を止めて、空を振り仰ぐ。
それでも星は輝いている。

前籠に鞄を載せたまま、自転車を止めた。
ヘッドフォンとi podを友に川へと向かう。
耳元で誰かが歌っている。
口ずさむ代わりに僕は踊り出す。
踊る代わりに僕は走り出す。

工事を終えた橋の上で川面を見る。
月と星に波が光る。
ただ、体の動くままにステップを。
パンプスのヒールが鳴る音を友に
翻るコートをリズムの代わりに。

もしも星が見えなかったら
月が昇らなかったら
どんなにいい音楽でも僕は踊れない。
月よりも素敵なDJにまだ、巡りあったことがない。

星と月と川と大地と踊る。
すべての恵みに感謝しながら。

2008年2月24日記す