Hazuki Natuno

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心を動かすものを

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韓国から帰って盛大に風邪を引いてしまい、その余波で10月は冴えない一ヶ月だった。
写真展「sign」の準備はなかなか進まないし、文章も上手く書けない。ちょっとへこたれた日々だった。
そんなとき、韓国に行く前に撮影した写真を見返していたら、胸を打たれた。

その写真はある友人をモデルに、撮らせてもらった写真だ。
明け方の由比ガ浜で、ジャズサックスが趣味の友人に「ムーンリバー」を吹いてもらいながら撮影した1枚だ。
私はその日、上手くイメージ通りに撮れないことにはがゆさを感じながら撮っていた。

韓国から風邪で寝込み、その後回復しようとする日々の中で、落ちついて写真を見返すことがなかなかできなかった。
あの日の写真も見返す元気がなかった。
上手く撮れなかったと思い込んでいたから、尚更だ。

ある日、心が動いてあの明け方の写真を現像した。
RAWからJPGに落とし込むうちに、あの日の空の色が心の中に浮かび上がってくる。
そう、こんな青い空気だった。

音楽を撮ることは難しい。それ以上にその人を撮ることは難しい。
足すのでもなく、引くのでもなく、ただそのひとの「ありのまま」を撮ることは一番難しい。
だけど、だからこそ、私は彼のただのありのままを撮りたいと思った。

人の心を動かすものは、ありのままの存在そのものだと思う。
例えば朝の空気の色。海を渡る風。響き渡る音色。
あの日の朝に聴いた「ムーンリバー」の音色は優しかった。そう、彼の人柄のように。

偽るのでもなく、飾るのでもなく、ただありのままに。
その人のありのままを撮りながら、同時に人の心を動かすものを撮りたい。
私は私がとったはずの写真に、胸を動かされた。